舌下神経電気刺激療法の費用は?保険適用の有無や相場を徹底解説!

新たな治療法「舌下神経電気刺激療法」に注目集まる

「CPAPを使っているけれど、マスクが合わなくてつらい」「どうしても眠れないから、他の治療法を探している」──そんな悩みを抱える睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者の間で、近年注目を集めているのが「舌下神経電気刺激療法(HGNS:Hypoglossal Nerve Stimulation)」です。

この治療法は、睡眠中に舌の筋肉を電気刺激で動かし、気道の閉塞を防ぐという全く新しいアプローチ。CPAPのような強制的な空気送入ではなく、自分の呼吸と連動して舌を動かすことで無呼吸を防ぐという、より自然に近い治療として期待されています。

ただし、最先端の医療であるがゆえに気になるのが「費用」です。

  • 手術が必要なのでは?

  • 保険は適用されるの?

  • 自由診療ならいくらぐらいかかる?

  • 海外の費用と比べてどうなの?

本記事では、これらの疑問に対して、できるだけわかりやすく丁寧に解説していきます。さらに、日本国内と海外における費用相場の違いや、高額療養費制度・医療費控除の適用可否なども含め、舌下神経電気刺激療法にかかる「お金のリアル」に焦点を当ててご紹介します。

治療法として興味がある方、すでに検討を始めている方にとって、有益な判断材料となる内容をお届けしていきます。

舌下神経電気刺激療法とは?

舌下神経電気刺激療法(HGNS:Hypoglossal Nerve Stimulation)は、睡眠時無呼吸症候群(特に閉塞性SAS)に対する新しい治療法として、欧米を中心に注目されている医療技術です。CPAP(シーパップ)の代替手段として導入を検討する人も増えており、「舌に電気を流すことで無呼吸を防ぐ」というその仕組みが大きな特徴です。

舌下神経とは?

舌下神経とは、舌の筋肉を動かすための神経で、嚥下や発声にも関わる重要な神経です。この神経を刺激することで、舌をわずかに前方へ動かし、睡眠中に舌が喉の奥に落ちて気道を塞ぐのを防ぐ仕組みです。

治療の仕組みと流れ

治療では、以下のようなプロセスが行われます:

  1. 電気刺激装置を体内に埋め込む手術
     胸部または顎の近くにバッテリー付きの小型装置を埋め込み、そこから細い電極を舌下神経に接続します。

  2. センサーで呼吸を検知
     装置には呼吸センサーが搭載されており、吸気のタイミングに合わせて舌下神経に電気刺激を送ります。

  3. 舌が動いて気道を確保
     電気刺激により、舌がわずかに前方に動き、空気の通り道がふさがれないようにすることで無呼吸を予防します。

  4. 睡眠中は自動制御
     患者自身が操作する必要はなく、睡眠中は装置が呼吸パターンに応じて自動で作動します。

CPAPとの違い

CPAPは、睡眠中にマスクを装着し、機械で空気を送り込むことで気道を広げる「外部からのアプローチ」です。一方、舌下神経電気刺激療法は「内部から舌を動かす」ことで気道を確保します。

CPAPが効果的であっても「装着が不快」「機械音が気になる」「睡眠の質が逆に下がる」という人にとって、この治療法は大きな福音となる可能性があります。

適応となる患者の条件

舌下神経電気刺激療法は、すべてのSAS患者に適用できるわけではありません。以下のような条件を満たす必要があります。

  • 中等度〜重度の閉塞性SASと診断されている

  • CPAPが使用できない、または効果が得られない

  • BMIが基準値内(肥満が重度でない)

  • 中枢性SASが含まれていない

  • 手術に耐えられる健康状態である

これらの条件は医師の判断によって厳密にチェックされ、事前の検査で適応可否が決まります。

日本国内での費用と保険適用の現状

舌下神経電気刺激療法(HGNS)は、海外ではすでに多くの実績がある治療法ですが、日本国内ではまだ導入段階にあるため、費用面については慎重な検討が必要です。特に「保険が適用されるのか」「実際にいくらかかるのか」といった点は、多くの患者にとって大きな関心事でしょう。

保険適用の状況(2025年時点)

2025年現在、舌下神経電気刺激療法は日本国内において**原則として自由診療(保険適用外)**で行われています。厚生労働省の保険収載リストにはまだ掲載されておらず、国内でこの治療を受けられる施設も限られています。

一部の大学病院や先進医療に積極的な医療機関では臨床研究の枠組みで施術を受けられる場合もありますが、その場合でも公的保険が適用されることはほとんどありません。

実際の費用相場(自由診療の場合)

自由診療で舌下神経電気刺激療法を受ける場合、費用は以下のようになります(2025年時点の目安):

項目 想定費用
初診・適応検査 約5万~10万円
手術費用(埋め込み手術含む) 約250万~350万円
装置代(電極・刺激装置) 約150万~200万円
入院費・術後管理 約20万~50万円
合計(初期費用) 約400万~600万円

※金額は医療機関によって異なり、為替レートや機器の輸入状況などでも変動します。

維持費とランニングコスト

装置を埋め込んだ後も、定期的な通院や装置の設定調整、電池の交換などが必要になります。これにかかる費用も事前に確認しておくべきです。

  • 年1〜2回の通院費用:1回あたり約1〜3万円

  • 電池交換手術(5〜10年ごと):約50万円前後

このように、初期費用だけでなく、長期的に維持費もかかるため、トータルでのコストを把握しておくことが大切です。

受けられる医療機関は限られている

2025年現在、舌下神経電気刺激療法を提供している施設は、全国でもごく一部に限られます。特に首都圏や大都市圏の大学病院・高度医療機関が中心で、地域によっては選択肢がないこともあります。

そのため、費用だけでなく「移動・通院が可能かどうか」「アフターケアは受けやすいか」といった点も踏まえて検討する必要があります。

高額療養費制度や医療費控除の対象になる?

舌下神経電気刺激療法(HGNS)は、費用が非常に高額であるため、「保険が効かないなら、せめて高額療養費制度や医療費控除が使えないのか?」と考えるのは自然なことです。ここでは、日本国内でこの治療にかかる費用を軽減できる公的制度について解説します。

高額療養費制度の対象になるか?

高額療養費制度とは、同じ月内に支払った医療費の自己負担額が、一定の上限を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です。医療費の自己負担が大きくなりがちな入院や手術でよく使われます。

しかしこの制度は、保険診療に対してのみ適用されるため、現時点(2025年)で舌下神経電気刺激療法が自由診療扱いで提供されている日本国内では、対象になりません。

よって、この治療費は全額自己負担となり、高額療養費制度による還付は基本的に期待できないと考えるのが妥当です。

医療費控除の対象にはなる可能性あり

一方で、医療費控除については、一定の条件を満たせば適用される可能性があります。

医療費控除とは、1年間にかかった医療費が10万円(または総所得金額等の5%)を超えた場合に、確定申告で税金の一部を軽減できる制度です。

この制度では、自由診療であっても「治療を目的として医師が行ったもの」であれば対象となる場合があります。舌下神経電気刺激療法が次の条件を満たしていれば、控除対象に含められる可能性があります。

  • 医師の診断のもとで実施された治療であること

  • 美容目的などではなく、明らかに「健康改善」が目的であること

  • 領収書などで医療費であることを証明できること

したがって、実際にこの治療を受けた場合は、費用の詳細な領収書や診断書などをしっかり保管しておき、確定申告時に税務署で相談することをおすすめします。

その他の助成制度について

現時点で、舌下神経電気刺激療法に対して特別な助成制度は日本国内では存在しません。ただし、自治体によっては難病医療費助成障害者医療費助成の一環として、他の睡眠障害関連治療の一部を補助しているケースもあるため、地域の保健所や福祉課に問い合わせてみる価値はあります。

舌下神経電気刺激療法を検討する前に知っておきたいこと

舌下神経電気刺激療法(HGNS)は、従来のCPAP治療が合わない方にとって画期的な選択肢となる可能性があります。しかし、誰にでも適している治療ではなく、いくつかの条件や注意点があります。ここでは、導入を検討する前に知っておきたいポイントをまとめます。

向いている人・向いていない人

まず、舌下神経電気刺激療法に向いているのは、以下のような特徴を持つ方です。

向いている人の特徴:

  • 中等度~重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と診断されている

  • CPAP療法が合わない、または効果が得られなかった

  • 肥満度(BMI)が35未満で、重度の肥満ではない

  • 中枢性無呼吸ではなく、閉塞性であることが確認されている

  • 外科手術に耐えられる全身状態である

向いていない(慎重に判断すべき)人の特徴:

  • 肥満度(BMI)が高すぎる

  • 舌下神経の構造が通常と異なる(神経異常・解剖学的問題)

  • 心臓ペースメーカーなど他の電気刺激装置を体内に使用している

  • 精神疾患などにより治療の継続が困難な可能性がある

リスクや副作用について

どんな医療行為にもリスクが伴います。舌下神経電気刺激療法にも、以下のような副作用や合併症が報告されています。

  • 手術時の感染症

  • 電極やリードのズレ、故障

  • 舌のしびれや違和感

  • 嚥下時の違和感や発音の変化

  • バッテリー部分の違和感や痛み

多くは一時的なものであり、装置の調整によって軽減されるケースが多いですが、まれに追加の処置が必要になることもあります。

導入までの流れと検査内容

舌下神経電気刺激療法は、希望すればすぐに受けられる治療ではありません。導入までには、いくつかの検査とステップが必要です。

  1. 耳鼻咽喉科や睡眠外来での初診・相談

  2. 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で重症度を評価

  3. 内視鏡を使った睡眠時の気道観察(DISE検査)

  4. 手術適応の最終判断と同意

  5. 手術日程の決定・装置の発注

  6. 手術(1~2時間程度)と入院(1~3日)

  7. 術後1か月程度で刺激装置の起動と設定調整

  8. 定期的な通院でのフォローアップ

このように、準備から治療開始まで数か月を要することもありますので、スケジュール的な余裕も持って計画を立てる必要があります。

費用面も含めて納得のいく治療選択を

舌下神経電気刺激療法(HGNS)は、睡眠時無呼吸症候群に苦しむ人々にとって、従来のCPAP療法とは異なる選択肢を提供する革新的な治療法です。特に「CPAPがどうしても合わない」「効果が出なかった」という方にとっては、QOL(生活の質)を劇的に改善する可能性があります。

しかしながら、この治療法には保険が効かない現状があり、数百万円単位の高額な自己負担が必要です。また、手術のリスクやアフターケア、定期的な通院の必要性など、検討すべき要素も少なくありません。

費用だけに目を向けると尻込みしてしまいそうですが、「毎日満足に眠れない」「仕事や生活に支障が出ている」「将来の健康が不安」といった悩みを抱えている人にとっては、投資に見合う価値がある治療ともいえるでしょう。

検討する際は、まず信頼できる専門医としっかり相談し、自身のSASのタイプや重症度、生活状況に合った治療選択をすることが何より大切です。費用面についても、医療費控除や支払い方法などを含めて現実的なシミュレーションを行い、納得できるかたちで前向きに判断することをおすすめします。


参考・引用記事
・ナショナルスリープファンデーション(National Sleep Foundation)
 https://www.sleepfoundation.org/sleep-apnea/treatment/hypoglossal-nerve-stimulation
・米国Inspire社 公式サイト(HGNSデバイス製造元)
 https://www.inspiresleep.com
・日本睡眠学会 睡眠時無呼吸症候群診療ガイドライン
 https://www.jssr.jp/data/pdf/guideline2020.pdf