
「最近、昼間にやたらと眠い」「朝起きても疲れが取れない」――
そんな悩みを抱えている方の中には、自覚のないまま**睡眠時無呼吸症候群(SAS)**を患っているケースがあります。とくに重要なのが、睡眠中にどれくらいの時間・回数にわたって呼吸が止まっているのかという点です。
いびきがうるさいと指摘されたことがある方や、日中の眠気が強い方は、体が発する“危険信号”に気づく必要があります。
この記事では、「無呼吸時間」「無呼吸回数」がどの程度から危険なのか、そのリスクや判断基準、受けるべき検査や対策について詳しく解説します。
睡眠時無呼吸症候群とは?
睡眠中に呼吸が止まる病気
**睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome/SAS)**とは、睡眠中に何度も呼吸が止まってしまう疾患です。
主に次の3つのタイプに分類されます。
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閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA):
喉や気道が物理的にふさがれることで起きる最も一般的なタイプ -
中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA):
脳からの呼吸指令が一時的に停止してしまうタイプ(まれ) -
混合型:
上記の両方の要因が組み合わさったタイプ
日本人に多いのは「閉塞性」で、肥満・加齢・あごの形状・飲酒習慣などがリスク要因とされています。
気づきにくいのが最大の特徴
多くの人は自覚症状がありません。というのも、無呼吸は睡眠中に起きるため、本人が気づきにくいのです。
典型的なサインとしては以下のようなものがあります:
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大きないびき
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睡眠中の呼吸停止(家族からの指摘)
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日中の強い眠気
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起床時の頭痛や喉の乾燥
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集中力の低下、仕事中の居眠り
こうした症状が当てはまる場合、無呼吸時間や回数が異常レベルに達している可能性があります。
無呼吸の「回数」と「時間」で何がわかる?
AHI(無呼吸低呼吸指数)とは?
睡眠時無呼吸症候群の重症度を評価する上で、もっとも重要な指標が**AHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)**です。
AHIは、1時間あたりに何回、無呼吸(呼吸停止)または低呼吸(呼吸が浅くなる)が起きたかを示す数値です。
この値が高いほど、呼吸障害の頻度が多く、体に与える影響も深刻になります。
AHIの重症度分類
AHIの値に応じて、睡眠時無呼吸症候群の重症度は以下のように分類されます:
AHI値 | 重症度 | 意味 |
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5未満 | 正常 | 特に問題なし |
5〜15未満 | 軽度 | 無呼吸が少しみられる |
15〜30未満 | 中等度 | 無呼吸が継続的にある |
30以上 | 重度 | 非常に頻繁な無呼吸状態 |
たとえばAHIが30というのは、1時間に30回も呼吸が止まっているということです。
これは2分に1回以上の頻度で無呼吸が起きていることになり、非常に危険な状態と言えます。
何秒続くと「無呼吸」なのか?
医療的な定義としては、10秒以上の呼吸停止状態が「無呼吸」とされます。
つまり、寝ている間に10秒以上息が止まるエピソードが何度もある人は、それだけで注意が必要です。
特に次のようなパターンは要警戒です:
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1回の無呼吸が30秒以上続く
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1晩で100回以上の無呼吸エピソード
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血中酸素濃度(SpO2)が90%未満になる時間が多い
このような状態は、脳や心臓への酸素供給が大きく低下するリスクがあり、長期間放置すると命に関わる病気へとつながる可能性もあります。
無呼吸がもたらす健康への影響
脳・心臓・血管への負担
睡眠中に呼吸が止まると、体内に十分な酸素が取り込めなくなります。これにより、脳や心臓、血管が酸素不足のストレスを受けることになり、以下のような問題を引き起こします。
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脳梗塞・脳出血のリスク上昇
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心筋梗塞・心不全の発症率増加
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不整脈の誘発(特に心房細動)
さらに、無呼吸によって睡眠が断片化されることで、自律神経が乱れやすくなり、血圧も上昇します。
日中の眠気・集中力低下・事故リスク
無呼吸による断続的な覚醒は、本人の自覚がないまま睡眠の質を著しく低下させます。
その結果として現れるのが、次のような症状です:
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強い眠気
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倦怠感や頭重感
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判断力・集中力の低下
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イライラや気分の落ち込み
こうした症状は、仕事や家事、運転など日常生活の安全性やパフォーマンスに大きな支障をきたす原因になります。実際、SASの人はそうでない人に比べて、交通事故の発生率が2~7倍高いという報告もあります。
高血圧・糖尿病・心筋梗塞・脳卒中との関係
睡眠時無呼吸症候群は、生活習慣病との関連が非常に強いことがわかっています。
とくに関係が深いのが以下の疾患です:
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高血圧:無呼吸による酸素不足が交感神経を刺激し、血圧が慢性的に上昇
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糖尿病:インスリン抵抗性の悪化により血糖コントロールが不安定に
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脳卒中・心筋梗塞:血管内皮機能の障害や動脈硬化が進行
これらの病気のリスクはAHIが高くなるほど増加するとされており、重度のSAS患者は5年以内に重大な心血管イベントを起こす確率が高いとも言われています。
放置せず検査を受ける重要性
無呼吸の放置は命に関わるリスクも
前章で述べたように、無呼吸の回数や時間が増えるほど健康へのリスクは飛躍的に上昇します。
特に、無呼吸時間が30秒以上続く状態が頻発する場合は、急性心不全や脳血管障害の引き金になることも。
しかし、多くの人は無呼吸を**「たかがいびき」と見過ごしがち**です。
この病気の怖さは、「自覚がないまま悪化していくこと」にあります。
だからこそ、早期発見・早期治療が極めて重要です。
自宅でもできる簡易検査とは?
現在は、病院に行かなくても自宅で簡単に睡眠検査を受けられるキットが増えています。
以下のような簡易検査が一般的です:
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指に装着するパルスオキシメーター
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呼吸センサー付きのポータブル装置
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専用アプリと連動するタイプのスマートデバイス
これらの検査により、AHI・SpO2・いびきの頻度・心拍数の変動などが可視化され、初期段階でもSASの兆候を捉えることが可能です。
必要に応じて、**病院での精密検査(PSG:終夜睡眠ポリグラフ検査)**を受けることで、より詳しい診断が下されます。
一人暮らしでも使える「いびきチェックアプリ」
周囲に指摘してくれる人がいない一人暮らしの場合、自分が無呼吸になっているかを知るのは難しいかもしれません。
そこで活用したいのがスマートフォンアプリです。おすすめは以下のようなアプリです:
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いびきラボ(SnoreLab)
録音・グラフ・スコア化に対応していて、いびきのパターンを可視化 -
SomnoCheck(スマートウォッチ連動型)
心拍・呼吸・いびき・体動などを多角的に測定可能 -
Sleep Cycle
いびき以外にも眠りの質を総合的に分析し、快適な目覚めをサポート
こうしたツールを利用することで、「知らぬ間に進行する無呼吸」の可視化と早期対応がしやすくなります。
まとめ
「睡眠時無呼吸症候群 無呼吸時間 回数」というキーワードから見えてくるのは、睡眠中の無呼吸が想像以上に深刻な健康リスクと直結しているという事実です。
特に、1回の無呼吸が10秒以上、頻度が1時間に5回以上(AHI≧5)であれば、軽度でも睡眠時無呼吸症候群と診断される可能性があります。
さらに、AHI30以上の重度となると、脳や心臓、血管に深刻なダメージを及ぼすこともあるため、「たかがいびき」と見過ごすのは非常に危険です。
現代では、自宅で使える検査キットやスマホアプリも充実しており、一人暮らしでも気軽にセルフチェックが可能です。
早期に気付き、必要に応じて病院で精密検査を受けることが、健康を守る第一歩です。
いびきがうるさい、日中に強い眠気がある、寝ても疲れが取れない…
そんな症状がある方は、ぜひ一度「睡眠時の呼吸」を意識してみてください。
参考・引用
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日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群診療ガイドライン」
https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/1103.pdf -
e-ヘルスネット(厚生労働省)「睡眠時無呼吸症候群」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-062.html -
いびきラボ(SnoreLab)公式サイト
https://www.snorelab.com/ -
睡眠医療認定医インタビュー(日本睡眠学会)
https://jssr.jp/data/interview/